『水環境問題と社会資本』 より抜粋
著者:(元)兵庫県立大学 環境人間学部 教授 村上光正

1.はじめに
 新緩速ろ過は、緩速ろ過をさらに高度化し高度浄水システムとするとともに、欠点であった閉塞を逆洗で自動化したものである。緩速ろ過は有機物や農薬、赤痢、コレラ、O-157等の細菌を分解し、クリプトスポリジウムも除去する。また濁質も除去する優れた能力を有するものであり、現代風にいえば高度浄水ということが出来る。新緩速ろ過はこれらの性能を細砂の利用により、さらに高めたものである。また閉塞に対しては削り取りで対処していたが、これを逆洗で完全自動化した。
 本法は、まず従来浄水システムがなかった山間地の沢水の利用を可能にした。さらに地下水の浄化に大きな力を発揮する。また激しい濁質が問題となる場合においても本システムは対応できる。このように従来対応困難であった原水に対しても対応できることも大きな特徴である。
 建設コストは極めて低く、急速ろ過、MF膜ろ過に十分対抗出来るものであり、維持管理費にいたっては遼に安価である。
2.システムの概要
 本法は逆洗付細砂ろ過と細砂緩速ろ過で構成されている。二段構成とすることによってシステムの柔軟性を飛躍的に高めたものである。濁度が高いとか、高い場合が時々あるというような原水に対しては、先ず逆洗付細砂ろ過で濁質の大半を除去する。その後で細砂緩速ろ過を行い、高度浄水とする。
 直送方式であった水道に対しては、逆洗付細砂緩速ろ過を省いて、細砂緩速ろ過のみで浄水することが出来る。従来の緩速ろ過が細砂の使用によって高度処理となったものである。

新緩速ろ過システムの基本フロー

 2−1 逆洗付細砂ろ過池
 池の最下部に集水装置及び逆洗水流入装置を配置する。池底部から上部方向にグリ石、砂利、細砂を充填する。グリ石と砂利は細砂を支えるものであり、他の発泡コンクリートなども利用できる。細砂は原水によって異なるがおおむね0.1〜0.3mmの微細な砂である。これが従来の急速ろ過の  0.7〜1mm程度と大きく異なる点である。ろ過速度は30〜150m/dであり、急速ろ過に比べやや遅い。
 このろ過によって、大半の濁質はろ過されてしまう。場合によってはこれだけで浄水とすることも可能である。そのろ過能力の高いことが、後に続く細砂緩速ろ過の負担を極めて低くしているのである。
 逆洗装置は急速ろ過の装置とは幾らか異なっている。逆洗速度は急速ろ過の数分の一であり、時間当たりの逆洗水量が少ない。従ってそれだけポンプは小型化し、建設費用が安価になっている。低逆洗速度は利用している砂が細砂であることを見れば明らかである。また表面洗浄装置も設置している。
 2−2 細砂緩速ろ過池
 この池の構造・機能は基本的には緩速ろ過池と同等である。違いは下部グリ石、砂利の構成とろ過砂、さらにろ過速度である。細砂はおおむね0.1〜0.3mmの大きさであり、原水によって異なる。緩速ろ過が0.4〜0.7mm程度の大きさであることを考えると極めて小さい。ろ過速度は8m/d程度であり、緩速ろ過の標準的ろ過速度の約2倍である。濁度が低い場合はさらにろ過速度を上げることが出来る。
 細砂の利用は浄水の高度化をもたらすだけでなく、有機物が少ない原水に対して濁質の漏出を止めるという効果がある。これは地下水への適用を可能にしたものとして極めて重要なことである。
3.技術的特徴
 3−1 緩速ろ過の閉塞対策
 閉塞を起こさない条件を付加するならば、緩速ろ過はコスト、浄水能力何れにおいても最も優れた方法になる。私と 株式会社開発興業 はこれらの長所を生かし、より実用化できるようにする研究開発を進めてきた。今その結果、を以下に示す。
  @ ろ過池の覆蓋
 覆蓋によって藻類の繁殖が無くなり、藻類による閉塞を止めることが出来る。緩速ろ過では基本的には覆蓋は行わない。その理由は太陽光の基で藻類を繁殖させ、多量の酸素を発生させることにあるとされている。しかしながら、藻類の繁殖はある意味では、分解に酸素を必要とする有機物を作っていることになり、かえって水を悪化させているのである。勿論藻類やそれから流れ出す諸々の有機物は、最終的には緩速ろ過によって分解されるといわれている。そうであるならば、生成した酸素はその分解に全て使われることになる。この藻類を排出するならば確かに酸素の余剰が出てくる。しかしながら速やかに藻類を流出させることが出来るかどうか技術的問題を抱えているものと考えられる。
 本法は原則として逆洗付細砂ろ過池と細砂緩速ろ過池の何れも覆蓋する。場合によっては前者の覆蓋は省くことが出来る。この覆蓋によって藻類の繁殖は行われず、トリハロメタンを高くするような成分の増加も阻止することが出来る。
 
  A 逆洗付細砂ろ過(前処理システム)の意味
     ○ 凝集剤を利用しない
 閉塞するのであれば、前段でろ過し、閉塞の時には逆洗すればよい。逆洗装置付きろ過は既に急速ろ過で一般的に利用されている技術である。問題は凝集剤を使わないで濾過することである。そこで細砂を使うことでこれを解決した
     ○ 物理ろ過と生物ろ過でクリプトを除去
 砂の粒径は0.1〜0.3mmと小さいく、5ミクロンのクリプトスポリジウムも大半を物理濾過できる。細砂であるから逆洗時の砂同士の衝突の衝撃は小さい。そのためバクテリアが繁殖しており、物理ろ過以外に生物ろ過を行っている。結局クリプトはこの逆洗で除去できることになる。
     ○ 沢水を始めて可能にした
 このシステムは、閉塞時の砂の掻き取りを、逆洗で置き換えたことになる。当然自動化したものであるから無人である。この自動化は従来濁質が多くて利用できなかった沢水に対しても対応できるものである。沢水は夕立があれば濁水となり、無機濁質のみならず細かい腐葉などが多量に含まれている。従来の緩速ろ過はこれに対応できなかった。あちこちの山奥で緩速ろ過設備がうち捨てられているのである。勿論急速ろ過は対応できない。膜ろ過も対応できないのである。
 
 3−2 ろ過砂に細砂の使用
 緩速ろ過では、ろ過砂は0.3mm以上で0.6mm程度の大きさのものを利用することになっている。しかし、これでは単なる濁水では濾過不十分になる。ある程度有機物が含まれていて、バクテリアが繁殖し、ろ過膜を生成することで、濁質も除去させるのが従来の緩速ろ過である。
 しかし、沢水や地下水などでは有機成分が少ないことが多々あり、スライムが完全には生成せず、濁質が除去できないことがある。こうなると浄化が不十分になる。そこで0.3mm以下の砂を利用することにした。この細砂は従来含まれてはならないと決められていたものである。禁止されていた細砂、この中に大きな可能性が詰まっていた。同じように逆洗付細砂ろ過も細砂を利用するが、緩速ろ過ではろ過速度が極めて小さい。また逆洗しない。そのため、逆洗付き細砂ろ過以上に、物理ろ過を行い、スライム(ろ過膜)が発達し、生物ろ過を行うのである。勿論細砂を単に採用するのでは、ほとんどの場合閉塞をきたしてしまう。そこで逆洗付き細砂ろ過を前処理として組み合わせることによって、この細砂を緩速ろ過に使えることになった。
 
 3−3 きれいな地下水は細砂緩速ろ過単独
 勿論、濁質や有機物がほとんどない地下水の場合、細砂緩速ろ過のみで良い。
 このシステムは、直送方式の安全対策、保険として有用である。直送方式で井戸水を一度細砂緩速ろ過して直ちに消毒後送水するのである。元々濁質がないから、ろ床が閉塞することが無く、かつクリプトスポリジウムの心配も無くなる。
 特に重要なことはろ過だけでなく高度浄水となることである。浄水設備というからには原水を浄水しなければ意味がない。安全で、美味しい水をさらに安全で美味しい水としなければならない。
 

■お問合せ  E-mail TEL/FAX

 

Copyright 2007- All rights reserved.NIHON-SAND-SYSTEM Co., Ltd. Web Products & Design by NIHON-SAND-SYSTEM Co., Ltd.